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「寮の暮らしも悪くない」その2 嘘つき姫と盲目王子 二次創作小説

寮の暮らしも悪くない その2

 

前に、王子とデートしたとき。焼肉屋さんで生肉食っちまったわたしだけど。
ニンゲンの食べるごはんも、かなり美味しさがわかってきたよ。
だから当然、残さずにいただきました。ふう、おなかぽんぽん。
「姫ちゃんは、好きなのとかあるの?」
食堂で、晩ごはんのあと。ほうじ茶をすすりながら、となりのサフィーが聞いてきた。
「んー。だいたいなんでも好きだなあ。火だけは苦手だから、火を使ってお料理できるニンゲンを、実は尊敬しとる」
「あ、言ってたね」
「なにをなにを?」
割って入ってきたのが、ガーネット。おとなりのクラスのニンゲン女子。けっこうホントにかわいいのに、何にでも首を突っ込んで損してる、同情を禁じ得ない子だ。
「ん? 姫ちゃんさ。バレンタインのときに、かがり火にお肉を放り込んで焼いて。それをわたしたんだって」
「さっすが! 姫はどっかしらが違うって、思ってたんだよなあ」
「いやわたしバケモノだし」
「いやいやいやいや! 関係ないっしょ! それはねー、徳ってヤツだね」
「なあにそれ?」
サフィーが聞く。わたしを置いてくな。
「んとねー。生きてる中で良いことをしたポイントみたいなの」
「ポイントカードかわたしは」
「それくらい、姫からはこう、オーラが出てるよね!」
「あー、わかるかも」
「おーい」
わたしを挟んだまま、きゃいのきゃいのとサフィーとガーネットが話してる。
「だって、それくらいの惹きつけるオーラ出てないと。王子サマと恋仲にはなれんしょー」
「きゃ。えっちだなあ姫ちゃん」
「キミたち」
ツッコミ入れてても、何だか楽しい。
「ほほう。姫はやはりえっちか。じゃあ、風呂で詳しく聞こうじゃないか」
「あ、そんな時間になった?」
「おん。そろそろすいてくるっしょ。風呂で聞いてやろう見てやろう、姫の身体に直接!」
「ガーネットちゃんも、きゃ」
「聞かれる立場にもなってくれ」
などと言いつつも。わたしはここで新しくできたお友だちに。感謝もしているんだよ。
最初は本当に、ビクビクものだったんだけど。こうやってお友だち、だんだんできて。
それぞれが、いろんな個性を発してるから、
(あ。わたしはわたしで良いんだ)
って、思えるようになったんだもん。
そそそ。
『みんなちがって、みんな良い』
とか言うやつね。それを実感するなあ……。
「よしよし。晩ごはんのあとは風呂って、むかしから決まってる。脱衣所に集合な」
「はあい」
「はいはい」
ガーネット、サフィー、わたしの順だよ。
じゃあ、水浴びして(ちょっと違うけど)、さっぱりしてから。ぐっすり寝て明日に備えましょうか。あ、課題を忘れてるけど。なんとかなるだろう、うん。

 

カコーン。カコカコ、チャプん……。
「ホントにニンゲンってすごいと思う。お湯をこうしておいてから、そこに入るとか、ねえ」
「姫はシャワー派なのか?」
「んー、なんともまだわかんないけど。川で水浴び程度だったから、そうなのかも」
「そんなっ! 公衆の面前でっ! ハダカでっ!」
「いやだからわたしバケモノだし魔女の森の中だし」
「サフィーは、どっかしらがズレてるよな」
「まんま返すよ、ガーネットちゃん」
返されたガーネットは、ふふふ、と不敵な笑いを浮かべる。ミディアムのくくられている髪が、意味ありげにちょっと、湯気の中で揺れた。ちなみに、わたしたちさんにんの中で、一番背が高くて顔立ちも良い。
「良いのかな? 姫とおんなじように、サフィーにも身体で聞くぞ?」
「え? ええっ?」
「何を聞く気なんだか」
「恋愛経歴に決まってる。そうだろ、サフィー?」
「そんなこと言われても、話すことなんも無いよ?」
「弱気だな。いつもの威勢はどこいった」
「そんなにわたし、威勢がいい?」
「ときどき」
と、わたし。
「だいたい」
と、ガーネット。
「あ、そデスカ……」
サフィーはお口の真下まで、チャプ、とお湯に沈んだ。
「ふふふ、夜は長い。じっくりと責めてやろう」
「いつも思うんだけど。ガーネットって、なんでいちいち発言がエロいんだ?」
「愚問、姫。わたしは存在がエロいんだ」
「あー。そーデスカ……」
わたしも真似して、チャプ、と沈む。あたたかくって気持ちいい。
「狙わ(タゲら)れちゃったね、姫ちゃん」
「わたしなの?」
「やぶさかでない」
「『やぶさか』ってなに? そしてビミョーに話をズラしてきたな、サフィー」
「ちっ、気づいたか。ちなみに、やぶさかでない、で。苦しゅうない、みたいな意味」
「? よくわかんないけど。いざとなったらオオカミに戻って、部屋まで逃げますし」
「逃しませんし」
ニヤリとガーネットが笑う。チェシャ猫みたいだ。
「逃げも隠れもしないから、そろそろあがろうよ。のぼせそう」
サフィーが言いながら、湯船に立ち上がる。豊満、つー言葉がぴったりな胸と、その、アソコが目の前に突然現れたので、けっこうわたしはドギマギしてしまった。わたしとしたことが。
サフィーはまったく意に介さず、あたまに乗せていたタオルを手にして、じゃばじゃばあがった。ニンゲンって、変に臆病だったり、変に大胆だったりするんだなあ。そんなことを思いつつ、サフィーの背中を見続けてしまう。
「惚れちゃった?」
振り向くと、チェシャ猫ガーネット。
「ないない。ニンゲンって面白いなあ、って思ってた」
「むー。まあ、そうかもね。わたし的には、姫のほうが謎が多くて面白いけど」
ガーネットが、目で、あがるよーと言いつつ。わたしのとなりに来た。湯気に隠れてるけど、わたしとおんなじくらいのちっぱい仲間だ。はからずも、サフィーのを間近で見たあとだけに、妙な親近感が芽生える。じゃぶり、とわたしとガーネットもあがって、タオルを固く絞ってふきふき。
「謎なんてある? わたしに」
「そりゃ。だって次期国王候補と、いちゃラブなんだよ? 最初聞いたときは、この子ちょっと妄想癖ひどいんじゃ、って思った」
「あー。そうかもね」
「納得してんじゃねえ」
「おいおい話すよ。それこそ、本一冊ぶんぐらいの内容だから」
「期待してるー」
「ほらー。行くよー?」
サフィーの声が脱衣所から聞こえた。わたしとガーネットは、ちょっと顔を見合わせて、首を縮めるようにして小さく笑った。

 

続きますー

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手のぬくもり、あなたと、わたしと