同じ景色を(一次創作 SS06)
「なあにこれ? 雪だらけだね」
興味を持った証拠、キミは鼻に手の甲を当てながらそう言った。
「んー、むかし貧乏旅行したときの写真」
「さすが鉄オタ」
そう言うキミも、りっぱな鉄子になりつつあるよ。まあその言葉は飲み込んだ。
「北海道」
「当たり」
「雪だもんねえ」
判断材料がそれだけと言うのも、いささか心許ないけれど。
「これもそうなの?」
「うん。なつかしいなあ」
「で。北海道のどこ? 広すぎるんだよね」
「天北線(てんぽくせん)」
「存じ上げないのである」
「もう、廃線だからね」
「なんだー」
あまりがっかりせずに、キミは言った。空想旅行のほうが好きなキミ、無理もないのかな。
「オホーツク海に沿うように走ってて。きれいな景色だったよ」
「それは、見てみたかった」
「こんな駅ばっかりでね」
「なにこれ!?」
「ホーム……?」
「それはわかる」
「こんな感じ。正確には駅じゃないんだけど」
「なんで? ホームひとつだけでも駅でしょ?」
「えーっと。詳しく話すと長くなるから。駅の格下駅、みたいな?」
「あらまぁ、かわいそうな。格が下なんて」
小さく鼻をふくらませる。本気で駅のことを心配しているところが、かわいくもあり愛らしくもあった。
「Googleな先生に聞いてください。『仮乗降場』でわかるはず」
「はいはい。それにしても、むかしから変な旅行ばっかりしてたんだね」
「あーね。言うでしょ? 『時間があるときは金が無い』って」
「貧乏だったもんね、いまでもか」
一言余計だったが、それがまあキミだ。
「廃線跡旅行でも計画する?」
「するー! めっちゃおもしろそう!」
花が咲いたように笑うキミ。このためだけでも、アルバム整理していた価値はあった。
(これは見せないでおこう)
どうせ見るなら、キミとその場で。同じ景色を見ていきたいから。
おしまい