呼び声(一次創作 SS08)
「ああ、そうだねえ」
懐かしむような声。わたしのことかと思い、ちょっと振り返る。
「そうとも。苦労が実ったんだよ」
なんだ。ただの世間話か。
ではあれ、ちょっと気になって。歩みをわざとらしくなく止め、店の中を遠く眺めるフリをする。
「いっときは臥せってたねえ」
「それよー。そこを乗り越えたんだから、たいしたものさ」
「でも、あれだろう? お金もそうとう」
「言うもんじゃないよ、生臭い」
「生臭いもんかね」
「そうともよ。口に出しちゃあダメだ」
「むかしっからあんたの言うことは、どっかで正しいからねえ」
「褒めたって何にもならんさね。苦労して努力した、その事実が大切なんさ」
まだ、なにかを話していたが。わたしはその、臥せていたと言うひとの努力を、こころのどこかで頼もしく思って。
また来てみよう。
少し笑って、歩き始めた。