「初めてひとりで」 わるい王様とりっぱな勇者 二次創作小説
「初めてひとりで」
嬉しさのあまり、わたしは目を見開いてしまった。
だって、「しゅぎょう」をひとりでできるなんて!
今まで、おとうさんにすっごくいっぱい、お手伝いしてもらってたけど。
今日は、ひとりでふもとまで。
(よーし、頑張ってみる!)
おとうさんへの返事もそこそこに、わたしは駆け出した。
「た、たぬき!」
細い道の脇、草の茂みがガサガサ言ったと思ったら。
たぬきが一匹飛び出してきた!
「負けないもん!」
わたしは剣を(木の枝だけど)構えた。
たくさんしゅぎょうしてきたんだもん。絶対に勝てる。
(まずは、落ち着いて。相手を見る)
たぬきはそれほど大きくないみたい。でも、怯えているわけでもなく。
(間合いをしっかりと取る)
敵意はそんなに感じないけど、どいてはくれないみたいね。
(攻撃は最大の防御!)
わたしは一気に距離を詰めて、たぬきに斬りかかった!
「でねでね! わたしが、てやーって!」
「うんうん」
「そしたらたぬきもびっくりで、きゅん、って鳴いてね」
「ほうほう」
「逃げていったけど、わたし追わなかったの!」
「そうか、よくやったね、ゆう」
寝床でおとうさんの身体に寄りかかりながら、わたしは今日の冒険譚をたくさん話した。おとうさんは、やさしくうなずいてくれている。
いつもの、寝る前のお話し。この時間が大好きなんだ。
「あー、なんか疲れたかもー」
「無理もないよ。さ、もうそろそろおやすみ」
「えー、もっとお話ししたい」
「大丈夫だよ。経験したことは逃げたりしないから」
「そっか。じゃあ寝る!」
「そうしなさい」
「おやすみなさい、おとうさん!」
「ああ、おやすみ、ゆう」
目を閉じたら、あっという間に眠りに引き込まれた。
(明日も、頑張るんだ……!)
ゆうを守るようにしながら。
おとうさんの王様ドラゴンは、寝床の天井から落ちてくる清冽な月明かりを浴びて。
愛おしそうに、ゆうの寝息を聞いていた。
おしまい