「月明かりとプロポーズ」 わるい王様とりっぱな勇者 二次創作小説
「月明かりとプロポーズ」
王様ドラゴンとしての執務をやっと終えて、わたしはゆうの待っているねぐらに向かった。ニンゲンと魔物の交流が、だいぶ平和裏に進んできたのはとても喜ばしいことだが、その余波でゆうと触れ合える時間が、かなり削れてしまっている。
(ゆうにはちょっとばかり、寂しい思いをさせてるな)
反省も含めて、今夜は「おはなしリクエスト」にたくさん応えよう、そう心を決めた。
寝藁に潜り込むようにして、ゆうが寝ている。だったら起こさないようにと、そっとわたしも巨体を横たえた。
「おとうさん」
「おや、起きていたのかい」
「うん。あのね? とってもとーっても大切なおはなしがあるの」
わたしはゆうといっしょに横になって、
「そうか。それはおそくなって悪かったね」
「んーん。おとうさんはがんばり屋さんだから、お疲れさま」
そう言ってもらえると、わたしとて心がくすぐったいものだ。
「どんなおはなしかな?」
「えっとねー。これを受け取ってください!」
ゆうが、わたしの鼻先に指輪を差し出した。と言っても、オモチャの指輪だ。ゆうがもっと幼いころ、ままごと遊びに使っていたもの。
「指輪……?」
「そうです、指輪です」
「でも、ゆうが大事に持っていたものだろう?」
「だから! 結婚して!!」
「はへ……?」
「これはプロポーズって言うんだよ」
そうだろう。わたしとて、その程度の知識は持ち合わせている。だけど、わたしに?
ゆうは続けて、
「わたし、おとうさんと結婚するの!」
高らかに宣言した。
うろたえたのは、むしろわたしのほうだ。
「あ、いや。っと、え? はい」
王としての威厳も何もなく、つっかかりながら返答する。なんとも情けない。
「やったあ!!」
まさに手放しで、ゆうは喜んだ。
「いやでもしばし待ちなさい。おとうさんはこの通り、ドラゴンだよ?」
まだ言葉がおかしいが、娘からこんなことを言われたら、狼狽しないほうがおかしいだろう。
「種族の差なんて、関係ありません!!」
ああそうか。
ゆうは冗談ではなく、本気で言ってくれているんだ。
(種族間に差なんて無い。みな、違っていても。みな、生きている仲間だ)
これはわたしが、ずっとゆうが小さいときから教えてきたこと。それをゆうは忠実に守り抜き、今こうして、言葉にしてくれたのだろう。実に、育て親の冥利に尽きるではないか。
「そうか……。ありがとう」
「大好き、おとうさん!!」
わたしの首に、ゆうが飛びついてきた。その衝撃によろけるほどではないが、たしかにゆうは成長している。心も、身体も。
「わたしもゆうが大好きだよ」
言いながら、泣くまい。ここで泣いては王としての沽券に関わるのであって……。
無理だった。
気づけばわたしは、両の目から滂沱と涙を流していた。
「おとうさん?」
「いや、すまない。これは嬉し泣きだよ」
「そっかあ!」
無垢なゆうの笑顔を見て、さらに涙の量が増える。そのはちきれそうな笑顔が、だんだんとぼやけてくる。力を振り絞って、わたしも笑顔になり。こちらはそっと、ゆうをかきいだいた。
(きこえているか、勇者よ)
まさに清冽な月明かりを浴びて、ゆうの寝息を聞きながらわたしはソラに向けておもいを馳せた。
(お前の子は、なんと。なんと心やさしく、強いのだろうな)
青い月の光。しんと心が静まる。
(ゆうを育てられていること、まこと誇りに思うぞ)
寝返りをゆうがうった。ポンポンとしてやる。
いつの日にか、ゆうがこの出来事を忘却の流れに載せてしまったとしても。
わたしは決して忘れない。忘れられるわけがどうしてあろうか。
そんな心の内への、返事なのかもしれない。星がひとつ、月光を横切って流れていった。
おしまい
そういえば父と娘でありがちな「将来はお父さんと結婚する!」っていうの、ゆうと王様で見てみたいな〜🌼
— ノンキ@ノッポ (@Nonki_Noppo) 2021年8月12日
ノンキさんのこのツイートがきっかけでした。
「おおうおおー! わたしも書きたい!」
と、暴走して書いたんですが、いかんせん140字の壁がありまして。じゃあ、改めてちゃんと書き直してみようとしたのが、今回のお話です。
もっと長く書けたとは思いますが、いつもどおり下書き無しで書いているので、冗長になっちゃうかな、などと。
いかがでしたでしょうか? ご感想などございましたら、コメントいただければとても嬉しいです!
おしまいまでお読みくださり、ありがとうございました