創作全般よっこらしょ

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「わたしの、彼の」 〜ズッキーさんのイラストと共に〜 嘘つき姫と盲目王子 二次創作小説

「わたしの、彼の」

 

 

 

本屋大賞で一位だって)

わたしは墓前に立ち、数ヶ月前に出版されたばかりの書籍を胸にかき抱いて、報告をした。森の中の小さな空き地。この墓地では、少々場に相応しくないような人物が眠っている。

(いつかは、って。夢だったんだもんね、王子)

わたしの永遠に愛する人物がみまかり、やっと落ち着いて遺品整理をしていたら。書きためた原稿が、大量に見つかった。わたしも、彼の執筆姿を何度も見ているし、いつかは出版できたらいいねと、語らったことも多々ある。彼は息を引き取るまで、市井の人物としてわたしと共に暮らしていた。なので、王家の墓には祀られていない。小さな、森の中の墓地を自ら選んで、そこに眠った。

息子も随分と反対をしたものだ。そして、王家に戻って欲しいとさんざん言っていた。だけど彼の意志は変わらなかった。その貫き通す姿は、若年の頃からまるで変わっていなかった。

元々がバケモノのわたし。ニンゲンの彼とは寿命がまるで違っている。見送ったときには、飾りでなく喪に服し、涙に明け暮れた。いつか別れてしまうこと。覚悟はできていた、わかっていた。いや、わかったつもり、でいたのだ。現実を突きつけられたとき、初めてわたしは運命を呪った。そんなものがあれば、だが。

「おばあちゃん」

ついつい、と袖口を引かれた。

「なんだい?」

「はやく、ご本の続き読んで」

「ああ、ごめんねえ。じゃあ帰ったら、続きにしようね」

「うん!」

孫も大きくなった。それを思えばわたしは、なんと恵まれていることか。

夢想を頭の中で軽く振って、わたしは孫の手を引き、従者と馬車の待つ森の出口へ向かう。この身分にも慣れてしまった。窮屈であるし、自由らしい自由もなかなか見つからないが、わたしの胸中にはずっと、彼が生き続けている。

「ご本は好きかい?」

「うん! 大好き!」

孫の笑顔が、彼の笑顔と重なる。少しだけ涙が溢れそうになった。

(また来るね)

心の中で彼と話すとき、わたしはついつい、昔の口調になってしまうが。それくらいは許されることだろう。

さあ、気持ちを切り替えて。墓前への報告も済んだ。孫にたくさん聞かせてあげよう。この童話集、『嘘つき姫と盲目王子』を。

 

 

おしまい

 

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心温まる、やさしいイラストです

 

こんばんは。

やっぱり「嘘つき姫と盲目王子」はてぇてぇ、姫も王子も大好きともみっす。

今回は、お友だちのズッキーさんが描かれた上記のイラスト。孫にお伽話を聞かせている王子ですね、こちらを見て、

「おうおお!」

と、勢いで書いたものです。ツイートしましたが、「オマージュ」って言うとかっこいいですねw

姫視点から書いてしまいましたが、王子視点からのお話も良きかなあなんて思っています。そのうち書いちゃうかもですが、その際はどうかまたお付き合いください。

イラストの掲載を快諾してくださった、ズッキーさん。本当にありがとうございました! 良かったらまた、何か書かせてくださいね。

 

 

おしまいまでお読みくださり、ありがとうございました。