「眠れぬ夜の過ごし方」 わるい王様とりっぱな勇者 二次創作小説
「眠れぬ夜の過ごし方」
自分の娘、その笑顔を見るだけで、わたしはなんとも言えないやさしい気持ちに包まれる。勝ち気で無鉄砲で、まだまだ世の中を知らないゆうだけれども。だからこそ、かわいくいとおしい。
今日も、わたしの姿を見つけるなり、それこそすっ飛ぶように駆け寄ってきた。ひとりで山のふもとまで、ちゃんと「しゅぎょう」を終えることができたのだから、その勇姿を見せたいと言うのも、当然の感情だろう。
「おとうさん!」
ゆうは走るスピードそのままに、わたしに飛びついてきた。
「どう? ここまでひとりでこられたんだよ! すごい?」
くしゃくしゃな笑顔。わたしも目尻が下がろうと言うものだ。
「ああ。がんばったね、すごいよ」
「ほんとう?」
「もちろんだとも。さすがゆう、わたしの娘だ」
「えへへー」
照れ顔で、わたしの背中に乗るゆう。
「帰ったら、わたしが『やーっ!』って、たぬきたち追い払ったところ、するからね!」
「わかった。楽しみにしているよ」
大きくツバサをわたしは広げる。力強く打って、上空高くまで一気にのぼった。
「森が小さい!」
「つかまっていなさい、しっかり」
ゆうの大好きな景色、ソラからの眺めだ。夕陽がはるか山々に沈もうとしている。オレンジに染まった雲が、ゆっくり流れている。風は涼しく、少々鋭く、わたしたちにぶつかってくる。
「おとうさん」
「なんだい?」
「また今夜も、パパのおはなし聞かせてくれる?」
「もちろんだとも」
「やったあ!」
ゆうのパパ。かつての勇者だ。――わたしをある意味、救ってくれた勇者。
(見えているか?)
(ゆうはこんなにも、たくましくやさしく育っているぞ)
山の端に、夕陽が落ちきる。黄金色をしたひかりのキラキラが、粒子となってわたしとゆうを包み込む。夜月が少々遠慮がちに、その青白いひかりを放ち始める。しずかでやさしい、夜の訪れだ。
「パパみたいなりっぱな勇者に、わたし必ずなるから!」
「――そうだね。ゆうならできるよ」
一瞬だけ言葉に詰まったが。これは、ゆうも亡き勇者も許してくれるだろう。
(夜の訪れ、か)
ゆうにとっては、あたたかくやすらぎの時間。
わたしにとっては……。
わたしには……。
今は考えまい。眠れぬ夜の過ごし方も、わたしはもう心得ているのだから。
おしまい