創作全般よっこらしょ

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「イブに手をつないで」 嘘つき姫と盲目王子 二次創作小説

「姫ー、ひめー」

王子の呼び声が、遠くさざなみのように聞こえる。そうか、ここはわたしの初見だった、海岸、と言う場所なんだろう。きっと、んーん、絶対に、王子と一緒にデートに来てるんだ。そこで、あんな呼んじゃって。無邪気だなあ、王子。わたしだけのおーじ。うふふ、ぐふふ。

「ひめ……?」

「んもー、この照れ屋さんっ! むふふ」

「寝言だけならともかく、ニマニマ笑われると。さすがに心配なんだけど」

「えー、寝たいのー。おーじの大胆! きゃー」

「あー。どうしよこの状況」

「いいのよー、どうしようなんて考えなくっても。わたしがやさしーくリードして」

「だあああ! ストップ!!」

王子がゆさゆさと、わたしの身体を揺さぶっている。いくらなんでも王子の言うことがおかしいぞ、と。わたしも気づいた。

「おーじ」

「やっと起きてくれた」

パチリと視界がはっきりとして。半分困ってるような笑っているような、そんな王子の顔が目に入る。わたしはもそもそと、身体を動かした。ベッドの中……?

「お昼寝するー。言って。さすがにこの時間だから、起こしに来たんだよ」

「え? 時間?」

「うん。もうじき陽が落ちるよ」

ガバッ! っとわたしは跳ね起きた。

「ごめん!」

「あ。いつもの姫だ」

「そりゃあそう、じゃなくって。ごめんね! 間に合うよね!?」

「うん。時間を計算して、姫の寝ぼけを考慮して起こしてるから」

うあー。なんともお世話になっちゃったなあ。

「あー。ありがとう」

「んーん。じゃ、着替えて。行こうよ」

「うん、急ぐね」

「大丈夫だよー。あったかい格好で」

ベッドのある寝室の隅っことかに、わたしの服が散らばっている。わたしはもう、下着姿でも恥じることもなく、チャチャッと着替えた。王子は厚手のトレーナーとデニム姿。わたしも似たような感じだけどね。これで、玄関脇にかけてあるコートをお互い着れば、お出かけできる格好になる。

「お待たせ」

「はいはい、じゃ行きますか」

玄関ドアを王子が鍵かけしてくれて、わたしたちは手をつないだ。これだけでも嬉しい。付き合い始めてどんだけ経ったよ、と言われそうだけど。いつまでもこう言うことは、新鮮な気持ちでいたいの。わたしだって、女子だもん(バケモノだけど)。

「あー、楽しみのあまり武者震いぜよ!」

「武者震いって言うのかな?」

「んー、違うか。でもさ」

「ん?」

「なんかこうして、一緒にお出かけって。何度だって嬉しいね」

「そうだね。うん、姫の気持ちわかる」

お互いに微笑みあって、ちょっとつなぐ力を強くする。王子もギュッて握ってくれた。

森の小道は、もう薄暗くなってる。わたしは夜目が利くから、王子をナビゲート。むかしの、って言っても数年前だけど。盲目の王子の手を引いたことが、思い起こされる。あの時には、こんなふうに一緒に暮らせるなんて、思ってもいなかったなあ。

「いつか」

「うん?」

「いつか、あのツリーのお星さまよりも、ひかるもの。姫にプレゼントする」

「あああああありがと///」

王子も照れてるみたい。無理もないか。

わたしたち、この町では恒例行事になっている、一番おっきいモミの木の点灯式に向かってるんだ。そのてっぺんにあるお星さまを手にすると、なんでもお願いごとがかなうんだって。それよりもひかるもの、なんて……。嬉しいな。

「わたしも、王子のこと。たくさんたくさんサポートして、安心をプレゼントしたいな」

「ありがとう、嬉しい!」

パッと、王子の笑顔が弾けた。

町のはずれに入った。さまざまなおうちがきらびやかな電飾を、生垣だったりお庭の木だったり、おうちの壁だったりにつけていて。まるで別世界だ。少し歩くと、中心部に近い、お目当てのモミの木。もうだいぶ、人が集まってる。ソラは陽の沈んだ柔らかい紺色をしていて、星々が瞬いていた。

「おーじ」

「なあに?」

「わたし、しあわせだよ」

「ボクも、しあわせだよ」

一緒に笑顔になる。あったかい笑顔。

今年はいろいろと出費があって。プレゼントらしいプレゼントを、お互いに用意できていないけれど。この時間が最高のプレゼントだ。

そろそろ点灯式が始まる。みんなそわそわし始めた。わたしたちは手をつなぎ直して、その時を待つ。

わああぁぁ!

光のシャワーが、下から上へとほとばしるように、モミの木に色とりどり電飾が灯った。それはどんなに言葉を尽くしても表せない、震えるような見事さだった。思わず涙が滲んでしまう。

「ひめ」

「おーじぃ……」

わたしたちは、ついばむようにそっとキス。一緒の暖かさ。そして同時に、

『メリークリスマス』

とささやくように言った。

ありがとうね、王子。わたしと一緒の人生を選んでくれて、わたしと一緒に暮らしてくれて、わたしと一緒に時間を空間を共有してくれて。

泣き笑いのまま、わたしは言った。

「大好きよ、王子」

半べその王子も、

「ボクも、大好きだよ。姫」

今夜は。今夜は、暖かく柔らかく静かに。ゆっくり噛み締めるように、一緒の夜を過ごそうね。

 

 

 

おしまい

 

 

 

みなさまも、良いクリスマス前夜をお過ごしくださいね。

 

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今夜は、今夜も、寄り添って時をわたろうね

 

おしまいまでお読みくださり、ありがとうございました。