創作全般よっこらしょ

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「風のイタズラ姫のあくびと」 嘘つき姫と盲目王子 わるい王様とりっぱな勇者 二次創作小説

風のイタズラ姫のあくびと

 

 

 

春先の風は、もうすでに暖かかった。とは言え、朝まだきの時刻。少々のひんやりもはらんでいて、頬をくすぐっていくのがなんとも心地よい。四季を感じられるって、本当にステキなことだよね。
そんなボクの隣りに立つ姫は、髪をポリポリしながら大あくび。春の雰囲気も細やかな機微も台無しにしてくれてる。まあ、それが姫なんだけど。風がまたやってきて、姫の制服のスカートと一緒に、小さく踊った。
「ふひゃ」
軽く、裾に手を添える姫。一応、女子の恥じらいは……。あるのかな?
「見てたでしょ」
「ボク!?」
「他に誰?」
「見てないよっ!」
「でも、おーじの好きな色だったよね」
「うん。ピンクってかわいらしあわわわわわ」
姫は、ふんす! と鼻息を漏らした。
「語るに落ちたね」
「姫にしては難しい言葉を」
「ごまかしは効かないのだ! 今朝のわたしは冴えきっているのだ!」
「大あくびしてた……」
「なんですと?」
「なんでもございません」

朝ラッシュ前の電車内。チラホラと車内では立っている人も。まあ座れるほどすいてはいないから、仕方がないよね。それにしても、みなさん眠たそうだなあ。姫もだけど。
「ごめんね。朝練のお付き合いとか」
「大丈夫。合唱部の練習、ボク好きだもん」
「入ろうよ、おーじも」
「んー」
「かわいい部員もいるよ?」
「ん?」
「まあ、わたしなわけだが」
再び、姫はふんす! としてる。
「もうちょい考えるよ」
「うん、そうしてみて。おーじの歌唱力なら、大歓迎だよ」
「カラオケだけ、だけどね」
「それでも。だってさ」
「うん?」
「わたしが入っていられる部活、なんだよ?」
ほんのわずかだけど。姫の瞳に、痛みの色が走った。そうだよね。歌声はまだ森の魔女さんから返してもらっていないし。あれだけの美声だったんだから、悲しい思いもひときわだと思う。

「姫は」
「?」
「どんなだって。バケモノだってオオカミだって、声が違っていたって」
「うん……」
「たったひとりの、ボクだけの歌姫だよ」
それを聴いた姫は、笑っているような泣き出しそうな、そんな笑顔に、くしゃっとなった。
「もー」
「うん?」
「かなわないな、おーじには」
「そんなもの?」
「ん」
そして直後に、突進の勢いで姫がキスしてきた。ちょこっとだけ、リップのシトラスがボクの鼻腔に残った。
「電車の中……」
「いいの。だって、おーじは」
「うん」
「おーじだって、わたしのたったひとりの、王子サマだもん!」

「見てましたよー。センパイ」
後輩のゆうちゃんが、ちょっとイタズラっぽく言ってきた。
「おんなじ電車だったの!?」
ボクはびっくりだけど。
「ふふふ。これが高校生のヨユーなのだよ。ゆうちゃん」
学校の最寄駅で降りて。ゆうちゃんが話しかけてきて。姫は3度目のふんす! をしてる。
「わたしも早く、高校生なりたいです」
「そんな焦んなくても。自動的になれるよ」
そう。ボクたちの通っている学校は、中高一貫校ってやつ。だからか、お気楽に姫が答えてる。
「留年の可能性も、考えに入れとこうね」
「ひどいな、おーじ」
通学路に、笑い声が弾けた。
「今朝は、フローラちゃん。一緒じゃないの?」
「途中まで一緒だったんですけど。『忘れ物ですわ! 不覚なのです!』って」
「あー」
「間に合うのかな?」
ボクは心配。でも、
「どうしようもなかったら、おとうさんが送ってくれることになってます」
(いいんですか、王様ドラゴン……)
そうとも思ったけど、声には出さなかった。
「すごいよね。王様ドラゴンなのに、送迎タクシー」
あ。姫がまんま言った。
「おとうさんですから!」
ゆうちゃんが胸を張って言った。でもこれだけの信頼関係、苦労もさぞかしあったんだろう。
ボクはちょっとだけ、王家の視点で考えてしまった。
「今度、遊び行っていい?」
「もちろんです! おーじセンパイも!」
「ありがとう」
素直に、感謝の気持ちを述べた。
「そろそろ急ごうか、姫の朝練もあるし」
「あ、そうだった! 見学、いいですか?」
「もちろんだよー」
その姫の言葉に、ゆうちゃんはにっこり。ボクと姫も笑顔になる。
(今日も一日、がんばろうね)

 

 

 

おしまい

 

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もしクラスが変わっても、一緒だよ