小糠雨(一次創作 SS01)
細く狭いプラットホームも、1両だけのディーゼルカーも、細かく冷たい雨にそぼ濡れていて、大蝦夷の寒さが身にしみる。定刻の発車まではもう5分を切っていたが、乗客はわたし以外に誰もおらず、赤字、それも大赤字のローカル線運営と言う厳しさを、いやが応にも感じさせていた。
夢想しているうちに、
「発車いたします」
と言う無愛想なアナウンスが聞こえ、デッキのドアが閉まった気配。エンジン音が高まり、車輌はゆっくりと動き出した。
窓ガラスに、斜めの雨粒が降りかかる。先ほどよりも、雨脚が強まってきたようだ。ろんろんるるる、と声高にエンジンが叫び始め、大蝦夷の大自然に抗っている様子を伝える。
終着駅まで、乗客は見込めなさそうだった。
わたしは大きく伸びをして、硬い椅子の背もたれに、後頭部をコツンとさせる。車窓からの景色は、まさに人外境と呼ぶにふさわしい。原始の森林の中を、ゆっくりと車輌は行く。
話し相手は、車内のぼんやりと温まった空気だけだった。その会話にも飽きたわたしは、腕を軽く組んで目を閉じる。
ろんろんろん。
そんなわたしを非難するかのように、エンジン音がいっそう高まった。