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「姫、超高難度ゲームクイズに出演する!」 嘘つき姫と盲目王子 二次創作小説

「姫、超高難度ゲームクイズに出演する!」

 

 

 

司会のサカサが、ジャグリングでマイクを操り、挑戦者である姫は、気合とスタジオに満ちる照明の熱で湧いた汗を、ゆっくりハンドタオルで拭いた。その姿はいにしえの闘技場で相手を待つ、戦士のそれに近かった。意識してか、無意識のなせるものか。大きくひとつ、息を吐く。

 

「サテ。ここまでレトロゲーム問題を上り詰めた姫。今のお気持ちを伺いましょうカ」

サカサが姫に問うた。カメラがぐっと、姫の姿をズームする。

「やれるだけやるのみです。がんばります」

気のせいだろうか。そう言った姫は自信とも怯えとも、両方に取れる表情を浮かべていた。口もとはぐっとしていて、今までの死闘がまざまざとうかがえる。

「この先、残るは3問。どれも超ハイレベルな問題なわけデスが、そのお言葉通り、がんばっていただきたいデス!」

その言葉が終わるやいなや、スタジオの隅で応援している王子とゆうから激が飛んだ。

「姫ならできるよ! がんばってね!!」

「センパイの意地の見せ所です!」

 

3枚のフリップをくわえたコンコが、緊張した面持ちを隠せない、解答席の姫に渡した。

(残り3問で3枚……。どれもマルバツ選択式の問題ってことね)

ゴクリ、と不安や恐怖心、高ぶっているこころを飲み込む。

「では。チャレンジしていただきまショウ! 問題、どうゾ!」

姫の席と斜め対面の位置に座っているフローラが、透き通った声で話し始めた。

 

「残り3問は、マルかバツかの解答をしていただきます。言うまでもありませんが、問題が正しいと思われたら、マル。不一致と思われたらバツを。フリップにお書きください」

いったん言葉を切り、フローラが姫を見やる。姫は小さくうなずいた。確かめたフローラが、問題文を読み始めた。

 

「問題。1986年、テクモ製のアーケードゲーム、『アルゴスの戦士』で。そのアイテムによる無敵時間は60秒である」

 

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きれいな背景が印象的でした

 

スタジオ内が、軽いどよめきに満たされた。だれもが、こんなムチャな問題、わかるわけがない。そう思っていた。しかし。

「おおっト! さらさらっと書き終えて、出した答えは。バツ!!」

興奮した口調のサカサが言った。もう一度どよめきが湧く。姫は上気した表情で、まるでそこに敵がいるかのような強い視線で、サカサを見た。

「よろしいんデスね?」

「もちろんです」

「では、フローラさん。正解は……?」

ドラムロールこそなかったが、誰もが息を呑んでいた。

 

バツです」

おおおー!!

拍手と歓声が響き渡った。しかし、と姫は思う。残りはまだ2問ある。ここで油断しちゃダメよ、わたし。

 

「無敵時間はアイテムの効果によって確かに発生しますが。その時間は60秒ではなく30秒です」

フローラだけが、熱に飲まれぬまま冷静な声でいた。その落ち着いた表情からは、何も汲み取れなかった。

 

「サー。残りは2問。この調子で進めるのか? はたまた……?」

いつものおどけ口調が、サカサから消えていた。それほどまでに気が高ぶっているのだろう。

「いけるよ! 姫ならできる!!」

「センパイ、がんばってー!」

「問題」

声援の上に重ねるようにして、フローラが無慈悲に発問し始める。

 

「問題。1986年、アイレム製のアーケードゲーム、『怪傑ヤンチャ丸』では、基盤のディップスイッチによって、ヤンチャ丸を無敵状態にすることができる」

 

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敵の攻撃が多彩で、コミカルなアクションゲームでした

 

さらに大きなどよめき。なんなんだこの問題は。ディレクターは気でも触れたのか? スポンサーにどう謝るんだ。そんな悲痛とも言える空気になる。

ひとり、いや、ふたり。姫とフローラだけは落ち着いていた。数瞬、首をかしげた姫は、さっとフェルトペンを走らせた。

「解答は、マル! さあ、どうなんでショウ!?」

みなが、フローラを。正確にはフローラの口もとを見た。じれったいほどの空気を生んで、フローラが、

「マルです」

 

もう、歓声と言うよりも、悲哀に近いものが流れ始めた。こんな苦しみを、しかも激痛を姫に与え続けて、何になる。早いところ、早いところ終わって、楽にしてあげてくれ……。

 

「ディップスイッチを操作することによって、無敵状態にすることが可能です。これは、製作者側のゲームテストに用いられた、ともいわれています」

 

「またまた正解!! 城下町のプリンセスゲーマー、破竹の勢いだああァァァ!!」

サカサからつばさえ飛んだのが、よくわかった。悲哀の次には、明らかな。それこそ、どうか次も正解であってくれ、ここまで来たのなら頂点、てっぺん取ってくれ。そうみなが思っている雰囲気が満ちた。いっそ清々しいものだった。

 

「いよいよ最終問題。姫、自信のほどハ?」

「正直言って、自信はないです。でもそれじゃ」

姫は王子を見た。王子はにこやかに、微笑み返した。

「ここで弱音を上げちゃ。今まで応援してくれたひとたちに、コンコに、サカサにフローラに、王様ドラゴンに。申し訳ないですから」

りっぱすぎる答えだった。王子は拍手を、ゆうは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。その姿を順に、王様ドラゴンがゆっくりと、カメラをパンさせうつしていく。

 

「わかりましタ。泣いても笑っても、これで最後!」

サカサの視線を受けたフローラが、一瞬だけ笑顔をみせて、問題を読み始める。

 

「問題。1986年、コナミ製のアーケードゲーム、『沙羅曼蛇』において。1周目の、ステージ1に出る最初のパワーユニットと、ステージ6に出る最後のパワーユニットは、おなじくミサイルである」

 

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STGの名作! でも一度死んだら復活はまずムリ……

 

もうスタジオ内は、怒号に満たされた。こんなもの、製作者以外わかるわけがない。いや、製作者すらもう、忘れているだろう。何というムチャな問題。姫がかわいそうじゃないか、これでは……。

 

姫はフリップに書く前に、ちらとフローラを見た。フローラも姫を見た。どう言うわけか、ふたりとも微笑んでいた。まるで幼い頃からの仲良しのように。そこには、問題を出す者、答える者。そのふたりだけが共有できる、一種の理解、言うなれば共通項のような感情が芽生えていたのだ。

「がんばれー!! 姫ー! ファイトだー!!!」

「ここで、かえんぎりを決めてこそ、センパイですーっ!!」

目をうるうるさせつつ、王様ドラゴンがカメラを王子とゆうに向ける。そして、カメラは姫をとらえた。姫は意を決した様子で、さっとフリップを出した。

 

「姫の解答は、バツ!! これがモウ最後の最後、果たしてこの運命の行方ハ!?」

すべての視線を受けたフローラが、ちょっとだけ頬を染めた。しかし、どこまでも落ち着いた声で、宣告に等しい言葉を発した。

 

バツです」

 

おおおおおお!!!

姫とフローラ以外、みなが立ち上がっていた。その口からは、称賛とも激闘を称える言葉ともつかぬ、悲鳴のようなものが発せられていた。司会であるサカサさえ、言葉と拍手を忘れたまま、ぽかんと口を開けている。

 

「ステージ1の最初のパワーユニットは、マルチプル。ステージ6の最後のパワーユニットは、ミサイル。よって、不一致。バツ、ですわね」

フローラの冷静な言葉に、みながハッとしたようにその解説を聞いた。しかし理解できている者は、フローラと姫以外、ここには存在していなかっただろう。

 

王子とゆうが、解答席の姫のもとに駆け寄った。姫は、すべての戦いを終えた、それこそ強烈な安堵感で立ち上がることができないようだ。ぐちゃぐちゃのゆう、笑顔の中にも涙を光らせている王子。王様ドラゴンは、おんおんと男泣きをしながら、その様子をカメラに収めている。サカサも解答席に向かい、フローラも立ち上がって、やさしい笑顔を浮かべながら拍手を送る。

 

「さすガ、城下町が誇るプリンセスゲーマー!! みごとな全問制覇デシた!!」

その言葉を受けて、姫がやっと立ち上がり。サカサとフローラ、お花のレイをくわえて持ってきたコンコに、笑顔を向ける。王子と手を取り合い、ボロボロに泣いているゆうのあたまを、軽くなでていた。王様ドラゴンは泣きながら、うんうん、と幾度もうなずいている。

 

「ありがとうございます。ありきたりですけど、ここまで来られたのは。声援を送ってくれたひとたち、そしてこのスタジオにいる、みなさんのおかげだって。思っています」

優勝者の証である、お花のレイを首から下げて。サカサのインタビューに姫は答えた。

その前には、優勝賞品である、なにか緑色をしたゴタゴタの板が3枚、台に置かれている。

 

「サテ。見事に優勝を収めた姫に、こちらをプレゼントです。フローラさん?」

「はい。賞品としてこちら、今の問題に出ました、『アルゴスの戦士』、『怪傑ヤンチャ丸』、『沙羅曼蛇』の業務用ゲーム基盤です。どうぞお収めくださいませ」

姫は目を丸くする。

「いいんですか? 今だったらプレミア付いてるのに……」

「それだけの権利をお持ちですわ、姫」

フローラの笑顔につられたのか、姫もにっこり笑った。

「ありがとう」

「でも、センパイ。この板で、どうやって遊ぶんですか?」

ゆうが、当然の質問をした。アーケードゲームに詳しくなければ、誰もわかるまいことだ。

「あ」

一瞬、スタジオが静まる。

「わたし、基盤もらっても。筐体がない」

あー……。

悲痛な空気になってしまった。

「で、でも! バイトなりなんなりして、お金をためて。アストロ筐体、買います!」

「微力ながら、ボクも手伝うよ、それ」

王子が姫の手を取った。誰からともなく、拍手が沸き起こる。

 

「サー。次回はどんな問題が出るのカ? 勝ち抜けるものは現れるのカ!? それではみなさん、次の問題で、またお会いしまショウ!!」

「ありがとうございました」

姫があたまを下げる。王子やゆう、サカサもコンコもフローラも、にこやかに手を振る。王様ドラゴンだけはまだ、男泣きに泣きながら、その様子にカメラを向けていた。

 

 

おしまい

 

 

こんばんはー。

さすがに一気に書いたら、当然疲れるよねのともみです。

 

さてさて。また、姫のゲームフリークシリーズ()なわけですが。書いていて楽しかったです。問題を考えるのがw

でも、『アルゴスの戦士』の無敵時間、ちょっとだけうろ覚えなんですよね。たしかそのはずだったんですが……。いつか確かめられるかな? わたしも。

 

下書きもせずに、ブラウザ開けてガシガシ書いてたわけなんですが、4000字超えましたねー。久々に長文書いたなー。

そんな、わたしの好きな、『嘘つき姫と盲目王子』、『わるい王様とりっぱな勇者』のメインキャスト総出演でお送りしましたが、いかがでしたか? あ、王様ドラゴンだけ最初忘れてて、あわててカメラさんに任命したりしましたw

 

次は姫、どんなゲームをするのか。わたしもわかりませんが、根気よくこのブログにお付き合いくださればさいわいでっす!!

 

 

おしまいまでお読みくださり、ありがとうございました。