「大人への一歩」 わるい王様とりっぱな勇者 二次創作小説
「大人への一歩」
今日は朝から、ゆうが冴えない表情をしている。父親としては、実に心配だ。
食事もそこそこに、藁の寝床に潜り込んでしまったので、わたしはほぼ終わらせた執務の残りを明日にまわし、ゆうの枕元に急いだ。
「どうかしたのかい?」
「なんか、おなかいたいの」
「冷えたかな」
「わかんない」
「おなかのどのあたりだい?」
「奥の方」
「他に、痛いところとかは?」
「無いけど、その」
「うん」
「おとうさん。わたしケガしたのかな?」
「どうしてだい?」
「あの、血。が」
「うん」
「その……」
口をつぐむゆう。頬が赤く染まってきている。
もしかして、とわたしは思う。
ゆう、初潮を迎えた……?
年齢的にみても、もう来てもおかしくはない。少しばかり気が急いてしまう。
赤ん坊の時から育ててはいるものの、こちらはひとり親家庭。わたしには話しづらいことも、これからたくさん出てくるだろう。
「ちょっとだけ待っていなさい」
「はあい」
わたしは、それこそドタドタと寝床を抜け出し、サカサを呼んだ。そして、フローラに急いで来てもらえないか依頼するように、サカサに申しつける。
「ゆうサンのためならー」
言い置いて、サカサがさっと出ていく。わたしは、もう一度ドタドタと寝床に戻った。
「血はどこから出てるのか、聞いてもいいかな?」
「そのっ、あの。おまた……」
確定した。ならば、ゆうの不安を取り除かなければならない。
「安心しなさい、ゆう。それはケガでも病気でも無いから」
「ほんとう?」
「もちろん。だけど、おとうさんには話しづらいだろうから」
「ん……」
「わたくしにお任せになって」
背後からフローラの声。思ったよりも全然早い到着だった。サカサが後ろで大きく、ゼーヒュー息をしている。
「ありがとう」
わたしは素直に礼を述べた。
「ちょっとの間だけ、おとうさまとサカサには席を外していただきたいと」
「わかった、頼むよ。それと、寝床の隅に買っておいたモノがある。とりあえずそれを使って欲しい」
「承知しましたわ」
「助かるよ」
「ゆうサン、ファイトですよ!」
わたしとサカサは、玉座のある謁見の間まで来た。ここならば大丈夫だろう。
「王様」
「うん?」
「その、ゆうサンは?」
「おそらく、と言うか十中八九、生理が始まった」
「ああ! それで」
サカサは話が早い。これだけでほとんどを理解したようだ。
「フローラに来てもらった。正直に言って、わたしから生理用品の使い方を伝えるよりも、ずっと良かろう」
「フムフム」
「ゆうだって女の子。わたしも準備はしてきたよ」
「そうなんデスね。さすが王様」
「お話中、失礼します」
フローラだった。
「ゆうに、とりあえずの手当ての方法を伝えました。おとうさま、さすがですわね」
「そうだろうか?」
「ちゃんと準備があって、ゆうへの愛情を感じ取りました。わたくしも一応、初めてのゆうが困らないだろう分は、国から持参したのですが」
「あれだけの情報で、よくそこまで」
「わたくしとて、一国の王女。ひとつのことから導き出される、さまざまなことを想定しております」
「そうか。助かったよ、ありがとう」
サカサは、うんうんとうなずいている。
「これからも、ゆうが困りそうなこと。ありましたら、遠慮なくお呼びくださいね」
「ああ。お言葉に甘えよう」
「ではもう少し、レディのいろいろな知識を、ゆうに伝えておきます」
「わかった」
わたしがうなずくのを見て、にっこりしたフローラはまた、寝床に入っていった。
「王様」
「うん?」
「そのおやさしさ。サカサは心より尊敬しまス」
「どうなのだろうな。わたしは父親として、できているのだろうか」
「それはもう。どうか自信を」
「そうか。ありがとう」
今日はゆうにとっても、わたしにとっても。大切な一日になった。そしてこれから、少しずつでもゆうは成長し、親離れも始まるだろう。いくばくかの寂しさは隠せないが、誇らしさも同時にあった。
なぜって。
どうあろうと、わたしはゆうのおとうさんであり、ゆうはわたしの大切な娘なのだから。それだけは、これだけは。揺るがせない絆なのだから。
おしまい