創作全般よっこらしょ

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嘘つき姫と盲目王子 二次創作小説 Vol.01 「遠いどこかにある」

オバサマとクーポンと

こんばんは

ドラッグストアで、見知らぬオバサマから、明日から使えるクーポンをなんと!

4枚も頂いてしまった、見た目もオサイフも貧乏ちっくなともみです

あー、よっぽどお金がなさそうに見えたんでしょうね

 

ちょっとばかりと言うか、かなり嬉し悲しなできごとでしたが

「おじょーちゃん、かわいいから(4枚)あげちゃうよう!」

と、お世辞でもそう言ってもらえたので、実は少し、にまにましてます

悲しいサガだなあ

 

タイトル、決めました

やっとここまで来て、メインタイトルを決めました

昔っからわたし、なにか話を書くと

最後まで書ききってから、タイトルを考える

そんなやり方が、クセになっているんですよね

 

今回もそうでした

「遠いどこかにある」

と言うタイトルです

 

完結したので、一気に

実は、16章(「章」と言うには短いですけど)まで

書いていたんですね

んで、

「小出しに更新していこう」

なんて考えていたんですが

わたしのことです

 

・絶対に更新がめんどくなって、先送りになる

・そして、延々完結しない

 

と言う未来が、予知能力を持たなくても、くっきりはっきり見えたので

 

今日一気に、書き上げちゃいました

なので、更新してしまいますねー

 

前置きがいつにも増して長くなりましたが

お付き合いくださいませ♪

 

 

 

11 提言

 

「よろしいですかな?」
自室のドアをノックされた。この声は、近衛兵の隊長だ。ボクは少しだけ背筋をしゃん、として、
「入ってください」
と答えた。

 

「失礼いたしまする」
当然ながら、剣と鎧は外している姿だった。隊長は笑みを少しばかり浮かべると、
「お会いしていただけぬかと、愚考しておりました」
「そんな、まさか」
ボクは椅子を勧めた。小テーブルに向かい合って座る。
「王子。この際ですので、わたくし腹を割るつもりでお話しいたします」
無言でボクは、肯定の意を示した。

 

「部下より聞き入れて存じます。――あの、歌うたいのバケモノですな?」
「うん、そう。そのとおりです」
ちょっとボクは驚いた。こんなにも、情報は回っているんだ。

 

「『どうして』と、お顔に書いてございますぞ」
うなずくよりないボク。
「一国の大切なお世継ぎの身でございます。王子の失明事件こそ、先んじることかないませんでしたが。毎晩、兵士を。王子に悟られぬよう派遣しておりますゆえに」
ボクは目を見開いた。
「そう、だったんですね」
隊長はにっこりと笑いながらうなずいた。
「事情も。だいたいのことは把握しております。わたくしごとでよろしければ……」
「はい」
「大いに賛成しとうございます」
言葉の出ないボク。

 

 

12 味方はまだいたんだ

 

「えっと。『どうして?』って聞いても、いいですか?」
「もちろんです。わたしはこの国のことも、当然いつも考えておりますが。まあ、このような立場におりますと、自然とそうなりますが」
うなずいて、先を促した。

 

「王子。婚姻は政略とは関係なく、王子の好ましいお相手となさるべきです」
さすがに、この発言には。おくちポカンになった。
「どんなお相手なのか、調べさせていただいております。あのバケモノ――姫と申しましょう――は信頼が置けます。自らが成した愚行とは言え、王子を螺旋塔から救い、失明を完治させたのですから」
「よく、そこまで」
首を軽く振る隊長。
「お世継ぎのことです。当然ですよ」
遅ればせながら、ボクは立ち上がってコップを取り、飲み物を勧めた。
「や、有難きご配慮。――良いですかな?王子が姫を、『この人であれば!』とこころ決めたのでしたら。大いに応援いたします。いかがですかな?」
ボクの目を、射抜くように真剣に見ている。

 

「ありがとう。もう味方なんていないと思っていたんです。胸を張って言いますよ」
いったん言葉を切って、

 

「あの姫だから。一緒になりたいんです」

 

隊長はそれを聞いて、莞爾と笑った。

 

 

13 いよいよのとき

 

それから数日後。

 

ボクは姫の手を引いて、謁見の間の右サイドに入ることのできる廊下をたどり。近衛兵隊長と引き合わせた。

 

「王子……」
「大丈夫だよ、姫。この人たちは味方だから」
 大きな身体を、小刻みに震わせている姫。安心させるように、ボクは手を強く握った。
「お聞きしております。わたくしを、いや、王子を。どうかご信頼なさってください」
「は、はい」
 おそるおそると言うように。姫があたまを下げた。

 

「王子。繰り返しになりますが、良いですかな。どのような結果が待ち受けていようとも、姫と王子自身を。信じ抜くのですぞ」
ボクは大きくうなずいた。
いよいよ。このときが来たんだ。

 

姫を怖がらせるわけには、ましてや危害が加えられるなど、絶対にあってはいけない。今、ここで。ボクが踏ん張って頑張らなきゃ。

 

「行こうか、姫」
姫の手を握り直す。強く、つよく。

 

 

14 かなわぬ夢

 

姫が、謁見の間に入ったとき。轟くようなざわめきが広がっていった。
無理もないかな。森にしか現れないバケモノが、昼日中、城中に出てきたんだもの。

 

「父上、こちらが」
ボクの言葉は、たちまち遮られた。
「妖しのものよ……。我が目が黒いうちは、存在も許さぬ!」
「父上!」
もう一度、ボクは声を上げた。

 

「お主のさしがねか?何でも構わぬ。余が切り捨てよう!」

 

父はそう言うが早いか、玉座の脇にあった宝剣を手にして、驚くようなスピードで姫との距離を縮めた。
「姫!」
ボクはなんとか、父と姫の間に入る。絶対に傷つけられるわけにはいかない。

 

「愚息よ……。今なら生命は取らぬ。去ねぃ!」

 

これには、皆が驚愕したらしい。近衛兵たちも、隊長も。動けずに凍ったようになっている。姫は、その目に深い悲しみをたたえて。抵抗することも、逃げることもなく。じっと父と対峙していた。

 

「父上、なりません!」
「そうか。ならばバケモノともに、地獄で落ち合うがいい!」

 

父の剣先が、姫とボクを薙ぎ払おうと大きく動いた。

 

 

15 森の魔女

 

「やれやれ。騒がしいことだ」

 

どこからかの声、空中?からの声と同時に。謁見の間に、立っていられないほどの猛風が吹き荒れた。父もボクも、姫も。たまらず身を低くする。強い風で、目も開けられない。

 

「国王を僭称する、悲しきニンゲンよ」
風が徐々に収まり、声はボクと姫の前から聞こえてくる。手で目をかばいながら、ボクはまぶたを開いてみた。

 

「ほう。妖しの森のバケモノか」
父の声に目をこらす。

 

森の魔女が杖をかまえ、ボクと姫を護るかのように立っていた!

 

姫が、ボクの手をぎゅっと握ってくる。驚きを隠せないまま、ボクも強くつよく握り返した。

 

「久しいな、ニンゲン」
父は答えず、鼻を鳴らした。
「われとて、まみえるにやぶさかだ。このふたり、預かる」
「好きにしろ。森をまた、豪火の海に沈めるまでだ」
「哀れなことだな、ニンゲンの所業は」

 

一瞬、目の前が真っ暗になって。
次に目を開いたときは、あの懐かしい魔女の館に、ボクと姫はいた。魔女の力で瞬間移動したらしい。姫が手をつないだまま、膝からくずおれた。

 

 

16 言葉と礼と

 

「無事か?」
無造作に、魔女が聞いてきた。

 

「うん。は、はい」
「大丈夫……、です」
ゆっくりと姫も、言いながら立ち上がった。

 

「余計なこととはわかっていた。だがな」
一旦、魔女は言葉を切って、
「われにも、幾ばくかの情はある」

 

魔女は顎で、
『テキトーに座れ』
と示した。

 

「その、ありがとうございます」
とにかくボクは、礼を述べた。姫と一緒に、手近な木箱に座る。

 

「言葉だけの礼などいらぬ、ニンゲンの王子よ」
――意味を考える。

 

そっか。
なにかと、交換なんだった。
ボクは、ブルブルっと身を震わせた。

 

「何を……。何を差し出せばよろしいでしょう?」
「王子!」
姫が、驚きの声をあげたけど。ボクは首を横に振りながら、
「いいんだ。姫はボクのために、歌声と記憶を失った。今度は、ボク。ボクの番だよ」
「王子……」

 

 

17 等価足りうるもの

 

姫が手を、また強く握ってきた。
その様子を一部始終見ていただろう魔女は、

 

「すべてを急いて考えるのは、父親譲りか?王子よ」
少々呆れているような、面白がっているような。そんな気配が言葉のうちに感じられた。

 

「かもしれません。わたくしが生まれる前のことなので、伝え聞いているだけですが。父は、国王は。この森を焼き払ったそうですね?」
無言の魔女。ボクは続けた。
「そんなひどいことを、よくよく考えもせずに行動してしまう。――たしかに、父の血を引いているのかもしれませんね」
手を、もっと強く握られた。

 

「なんぴとも。愚行はあって然るべき。だが、父親とは違うと。期待しているのだが?」
「違う……。そうですね。わたくしはただ、平和に暮らしたい。姫とともに、可能ならこの国元で。静かに暮らしたいだけなんです」

 

不快そうに、鼻から息を吐く魔女。
「何もわかっておらぬのだな、ニンゲンの王子。そんな余地があるとでも思うてか?お主の父は、本気で。あえてこの言葉を使おう。本気で戦いを仕掛けてくるぞ?」

 

「ですから。差し出せるものがあれば、何でも差し出します」
ボクは食い下がった。なんとかして魔女のこころに訴え、味方になって欲しかったからだ。

 

「味方につけたいか」
考えを、完全に読まれている。ボクは必死になって、
「はい。父の愚行を止めさせて、元通りの平和な暮らしを送りたいのです」
包み隠さず話した。

 

 

18 不可能ではないけれど

 

「面白いな。父親とは真逆。その正直さで、今までよくもまあ無事に過ごしてこられたものだ」
嘲笑うというよりも、本当に面白がっている雰囲気が感じられた。
「その正直さを買おう。代償は要らぬ」

 

ボクと姫はびっくりした。
「本当ですか!?」
良かった……。となりにいる姫が、小さく漏らした。
「二度とは言わぬ。その代わり、もう想像がついておるだろう」
「――何でしょう?」
「われが手を貸すこととなれば。この国にはいられなくなるぞ、ニンゲンの王子よ」
「……」
「ニンゲンのいさかいには、興味は持たぬ」
「はい」
「国を追われ。そこのオオカミと、生涯を共にする。覚悟はあろうな?」
「――はい」

 

魔女は、仮面の奥でくつくつ笑った。
「立派なもの。その決断した勇気、悪いようにはせぬ」
「……?」
「お主からの代償を受けぬとしても。戦いの中で、無数の無念さと怨嗟が渦巻く」
「それを集めるんですね?」
姫が口を開いた。

 

「察しが良いな」
「コレクションのことは、有名ですし。わたしたちが無にしてしまったらしいことも、責任を感じています」
ついに魔女は、声に出して笑った。

 

 

19 戦いが始まる

 

「先にも言っただろう。幾ばくかの情はある。お主たちの生命は要らぬ。恨みにまみれた感情もな」
「味方になってくださる、それで間違いはございませんか?」
言質を取るわけじゃないけど、遮る形でボクは言った。確認の意味も含めてだ。
「二言はない」
こころの中で、ほっとため息をつく。

 

「ニンゲンの王子よ」
「はい」
「父に恨みはないか?呪怨はないか?」
少しだけためらって、
「もう、ありません。一度はわたくしも、螺旋塔に幽閉されました。ですが、それを今さらどうこう言うこともありません」
無言の魔女。ボクは続ける。
「ただ。姫と平穏無事に、暮らしていきたいのです」

 

「父は考えなしだが、お主は多少なり、考えられると言うことか」
「――かもしれませんね」
魔女は軽く、杖をトン、とした。
眼前の空間が渦巻き、何かの光景を映し出し始めた。

 

「愚かなものだな。準備を始めよった」
そこには父自らが陣頭に立ち、兵士たちをまとめている様子が、まざまざと映されていた。

 

「最後の問いだ。後悔はないのだな?」
「ありません」
「――わたしはもう、この身、王子と共にあります」
ボクと姫は、お腹から絞り出すように。それではあれ、強く答えた。

 

「成立だ」
短く魔女は言った。どこか、一抹の悲しさを隠しているかのような声だった。

 

 

20 ひとときのやすらぎ

 

ボクと姫は、魔女との会話を終えて。少し館でやすませてもらうことになった。魔法で、奥まった部屋に、簡素ながらベッドを出してもらえたのだ。それも、ダブルサイズのベッド。
「これって、王子……?」
「うん。一緒に横になれ、ってことかな」
こんな場合であれ、ボクと姫の頬が赤く染まる。やましい気持ちになったわけじゃないよ?

 

「わたしの体重でも、大丈夫かしら……」
姫はそう言うと、恐るおそるベッドに乗った。
「わあ。身体が沈んじゃいそう」
「ほんとう?」
興味が先に立って、ボクもベッドに乗ってみた。うわ、ふわふわだ。
「すごいなあ。こんなものを魔法で出しちゃうんだもん」
ボクもうなずく。魔女の持っている能力に、改めて感服してしまう。

 

「眠くなっちゃうね」
安心感が生まれてきたのか、ちょっとおどけたように姫が言った。
「うん。せっかくなんだし、少し寝ようか。――あ!」
「う、うん」

 

ふたりして、真っ赤になる。こんな場合じゃないのにね。
でも、うれしかった。なぜかって……。
姫が。
姫が、『そういう』存在として、ボクを見て、感じてくれていたから。

 

「王子、疲れたでしょ。寝てていいわよ。しばらくしたら、声かけて起こすし」
「うん。じゃあ、寝ちゃおうかな。――姫はいいの?」
「うーん。少しうとうとはするかも。それよりも」
「も?」
「――王子の寝顔、見ていたい」

 

ボクの顔が、いつかの姫みたいにボフン!となった。

 

 

21 夢の中で

 

国中が。小さい王国ながらも、全国民が。
祝福の拍手とお祝いの言葉を、轟き渡るかのように響かせる。
いよいよ今日は。姫との婚礼儀式を終えて、国民の前で披露する日が来たんだ。

 

長かったな。そして、つらく苦しかったな……。
だけど、それも報われる。悲しみや痛みは昇華され、喜びの中に溶けていこうとしている。
ボクは胸を凛と張って、姫の手を取り。みなの前に出ようとした。

 

(姫?)
妙に軽いと思ったら。
腕……。ボクが握っているのは、姫の片腕だけじゃないか!
「姫!!」

 

「姫ッ!!」
「どうしたの!?」

 

意識が戻る。左どなりを見ると、驚いている姫の顔と目が合った。
「姫……」
「うん。大丈夫よ、わたしここにいるよ?」

 

(夢……。なんて悪夢だ)
大きく息を吐いた。額にイヤな汗をかいている。
「王子、うなされてた。そしたら突然、わたしのことを叫んで……」
「――うん」
「夢、を見ていたの?」
「――うん。ひどい悪夢。ああ、ゾッとする」

 

やさしく、やわらかく。姫が横になっているボクのことを、抱き寄せてくれた。
「怖かったね。大丈夫よ、安心して。ここにいるから」
「うん」
「ずっと。ずっと王子のとなりにいるからね」
「うん」
ボクは甘えるように、姫の腕に絡みついた。
「疲れてたんだね……。どこにもわたしは行かない。王子と共にいるから、ね?」
泣きそうに、ボクはなってきた。姫はこんなにも、そこいらの『ニンゲン』よりも。
ずっとずっと、ニンゲンらしいこころの持ち主なんだ。

 

 

22 これから

 

「姫は……。姫は少しでもやすめた?」
「うん、王子のとなりでうつらうつら」
「そっか。それなら良かった」
なによりもの安心材料だと思う。
特に。特に、ボクの見たような悪夢に、巻き込まれなかったことが。
「いつか。いつか、聞いてくれる?」
「うん?」
「ボクの見た、最悪の悪夢」
「もちろん」

 

その返事を聞いて、ほう、とため息が出てしまった。
姫の存在は、いつしかボクの中でとても大きなものとなっている。安心、ぬくもり、やわらかさ。どれを失くしても、それはもう姫じゃない。
ワガママとはわかっていても。姫と離れるなんて、とてもじゃないけどできない相談だ。

 

「これから……。どうするのがいいのかな」
「王子の思う通りでいいのよ。今までずっと。抑圧されてきた生活なんだから、少しぐらい、んーん、思いっきり好き勝手したっていいのよ。カミサマがいればだけど、バチなんて当たらないわ」
思わずボクは、姫に抱きついた。
「王子……」
「ちょっとだけ」
「うん」
「ちょっとだけでいいから。こうさせてて」
「うん」

 

力が湧いてくる。姫とともにありたい。その思いを叶えるために。
勇気が湧いてくる。姫を守り、ボク自身をも守り。『ほんとうのしあわせ』を、掌中に収めるためにも。
大丈夫。姫はとなりにいてくれる。そしてボクも、いつだって姫のとなりにいる。
ゾワゾワの手なのに。
背中を撫でてくれている姫の手は、とてもとってもやわらかくて慈愛に満ちていた。

 

 

23 いよいよのとき

 

「多少は回復したようだな」
開口一番、魔女が言った。
「はい、とても」
「ありがとうございました」
ボクと姫は、丁寧に礼を述べた。届くかわからなかったけど、こころを込めて。

 

「どうするのだ?好きに動いて良いのだぞ?」
ちょっとだけ、からかうかのような魔女の口調。きっと、ずっと『なにか』に縛り付けられていた、ボクのことを暗喩しているのだろう。ではあれ、今のボクにはそれすら力に変わっていくものだったんだ。

 

「この森を出て。平安を探します」
魔女は無言で、姫の方を見た。
「王子と共にいます。王子のとなりが、わたしの平穏の地です」
気のせいか、わずかにためらう様子が魔女に見られた。

 

「これからわれは。軽く、国王を僭称するニンゲンに。誤った考えを思い知らせることとなる。繰り返すが、ニンゲンのいさかいなどどうでもよい。この森とコレクション、大切なのはそれだけだ」
ボクと姫は、無言で次の言葉を待った。

 

「良いのだな?父母と永遠に、たもとを分かつとも」
「はい」
姫が、背中に手を置いてくれた。
「どのようなそしりが来ようとも、覚悟はできているのだな?」

 

最後の問いを終わらせたはずの。そんな魔女に似合わず、諭すような口調だった。でもボクは、力強くうなずいた。

 

「オオカミよ」
「はい」
「森から生まれたものの持つ、生命。わかっていてもか」
「もちろんです」

 

数秒間、魔女は沈黙した。そして、
「把握した」

 

そう言った魔女にはもう、迷いの気配は感じられなかった。
「どこに行きたいのだ?餞別代わりに、送ってやろう」
「えっと……」
「じゃあ、森の外れ。いつも歌っていた、小高い岩山のもとへ」
魔女は姫を見て、軽くうなずいた。

 

「さらばだ。ニンゲンの王子、元歌姫のオオカミよ」

 

 

24 そして

 

一瞬、目の前が真っ暗になり。次にはもう、岩山のふもとにボクたちはいた。空を仰ぎ見る。夕刻近い残照が、雲を染めていた。

 

「ここ……」
「そうだね。姫が歌っていた、岩山だ」
どちらからともなく寄り添って、手を握り合う。

 

「これから、どうするかも。自由なんだね」
「そうよ。王子の生きたいように生きていいの」
そっか……。

 

「姫と一緒なら、どんなでもいいよ」
「またもー」
少し、頬を赤らめる姫。でも少し、逡巡の様子を見せたあと。

 

「王子。これからのために、ちょっとだけわたしのことを。わたしと王子のために、伝えておくね」
「うん?」
姫は。悲しそうな光をわずかの間、瞳に宿したあとで、

 

「わたしは。この姿の通り、森のバケモノ」
「うん」
ボクの手を握る力が、ちょっと増した。

 

「ニンゲンとは、違う時間を生きること。それを強いられる……」
「それって」
うなずいた姫は続けた。

 

「わたしは、王子とは寿命が違う。ずっとずっと長く生きる」
「……」
「いつかの日には、王子がみまかるところを、送り出さなければならないの」
「――うん」
「その後も。ずっとずっと生き続ける」

 

「姫」
「なあに?」
「うすうす感じていたよ。ボクたちの生命の長さが違うことを」
「そっか……」
「ボクはまったくかまわない。ただ……。姫を残すことが。それを思うとこころが痛くなる」
「うん」
「それまでの間。ボクたちは生きよう。精一杯生きよう」
「王子……」

 

姫が抱きついてきた。ボクは背中に、強く腕を回す。
「生きるわ。長さが違っていても、生命の価値はきっとおんなじだから」
「そう思うよ、ボクも」

 

オヒサマが森の木々の向こうで、黄金色に輝いた。キラキラと光の欠片が、森を、ボクを、姫を包み込んでいく。

 

「この先、どうなるかわからない。もしかしたら王子に、悲しい思いをさせないかって……。心配だったの」
「大丈夫だよ。姫は姫。ボクだけの姫だもん」
「ずっとずーっと先に。いつか来る別れの時まで、わたしの歌。聴いてくれる?」
「もちろん」
「ありがとう」
「ありがとう」

 

宵闇が静かに落ちてきた。

 

「行こうか」
「うん!」
手を繋ぎ直す。

 

どこまでも行こう、姫と一緒に。追放された王子、それで全然かまわない。

 

ボクは、一度はすべてを失くしたニンゲンの元王子。
となりにいるのは。
歌声と記憶を失くした、バケモノの元歌姫。

 

それでいい。
ボクたちは共にいる限り、もうなにも恐れるものは無い。
そう。
生きている限り、ボクも姫も変われる。変わることができる。

 

それがきっと。ボクたちを迎えてくれる、遠いどこかにある楽園の真理に、違いないんだから。

 

 

おしまい

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ありがとうございました

「嘘つき姫と盲目王子」を愛するあまり、勢いに任せて書いてしまいましたが

いかがでしたでしょうか?

 

とても素晴らしいゲーム作品なので、みなさまそれぞれの中に、

「嘘つき姫と盲目王子」

が、あると思います

そんなみなさまの琴線に、ちょっとでも触れられたなら

うれしいなあ、と思っています

 

 

ご意見やご感想をお待ちしております

一番最後に、一番ワガママw なお願い

このブログへのコメントでも、もしくはTwitterのリプやDMでもかまいません

どうか、読後のご意見やご感想をくださいませ

次回、何かを書くときの

貴重な推進力になりますので

 

どうかよろしくお願いいたします

 

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました