ソラに恋したんじゃない(一次創作 SS04)
もうさっぱりと。忘れてしまい、気持ちも切り替えて。
「またそう言う」
わたしはちょっと、困った顔になっているだろう。だって、忘れることができないからこそ、ここにいるんだもの。でも、あなたは、
「切り替えてみよう」
表情と言葉で繰り返す。さらにわたしは、困惑顔だ。しかしこれでは平行線なので、少々言葉を選んでみる。
「ここの他に。どこがあるの?」
待ってました、とあなたの表情。わずか得意げに、ソラを見上げる。
「この上?」
「そう」
予想範囲内の回答ではあれ、わたしは少し不機嫌になる。
「望んでいないのに」
「でも。時間が来た」
時間、か。わかっている、わかっていた。目をそらしていたのも認めよう。だけど、そんなロジカルなことで、わたしの気持ちは収まらないよ。
「行こう、一緒に」
ずるい。その笑顔はずるい。顔に出てしまったのか、
「キミだってずるいサ。契約を履行してよ」
ふぅ、と息をつくわたしたちふたり。言い合っていても、仕方がないのもわかってる。でも少しぐらい、駄々をこねたって許されるでしょ? 離れたくないもの。
「立つ鳥跡を濁さず」
「……」
わたしは答えない代わりに、ゆっくりぐるりと周囲を見回した。
「見納め?」
うなずくあなた。そして、
「いつでも。また来られる。キミが強く願えばかならず」
うそもてらいも感じられないその言葉に、やっとわたしは首を縦にした。
「わかった。契約は守る。――電線だらけで、引っかかりそう」
「ボクがついてるよ」
仕方がない、時が来た。駄々っ子タイムは終わりを告げなきゃ。
「息、吸って。おーきく吐いて。はい」
右手を握るあなた。遠くかすんでいく路地。不思議だな、涙のひとつも出ないものなんだね。
上にある、青空なんて。
本当はわたし、どうでもよくて。
こんな不器用の存在に、手を貸してくれている。
あなたに恋したのかもしれないな。